壊されやすい金庫と、壊されにくい金庫の違い? 先日、くしくも空き巣被害に遭われて、金庫を破壊されてしまったお客様から引き取り処分の依頼を受けて対応させて頂きました。 もちろん、壊されたのは弊社製の金庫ではありません。 某社(現在は廃業しており、会社はありません)製の量産型金庫です。 使用環境は、都内の住宅街にある事務所にて、床固定等せずに見出しで設置していたようです。 正面は無傷。裏側を破壊されていました。 金庫に対してそこそこ知識のある者の犯行と思われます。 |
この壊された金庫を、検証してみました。 |
丈夫な金庫の正面には一切手を付けずに、この金庫の弱そうな部位である裏側のみを攻撃しています。 これは、金庫に対してそこそこの知識があるか、何度か金庫を破壊したことのある者の犯行だと思われます。 バールのような物で、裏板を強引にこじ開け、壁内の耐火材を叩き壊して穴をあけ、内箱の鉄板を叩き切ったようです。 バール1本、もしくは、バールとハンマー程度による軽装備での犯行だと思われます。 さて、この写真を見て 「金庫って、そんなに簡単に壊れてしまうの?!」 「犯人は、かなりの怪力の持ち主?!」 といった疑問や不安を抱いてしまったあなた。 そんなあなたの為に、この金庫がなぜこんな姿になってしまったのかをこっそりお教えします。 |
検証1、 溶接があまい まず、私も初めてこの金庫を見たときに、裏板がこんなにも簡単にはがされてしまうのか? と驚いてしまいました。 しかし、溶接の状態を見て、納得。 点付けで、しかも、盛ってあるだけ。 これでは、簡単にはがされてしまうのも無理はありません。 |
左の写真は、はがされた裏板の溶接部の拡大です。 表面は、こんもりと丸くきれいに溶接出来ているように見えていましたが、実際には、裏板の表面とその脇の本体側の表面に溶接肉が盛られているだけで、鉄板同士がしっかりと溶融されていませんでした。 その証拠に、溶接部の裏側(裏板裏面部写真)を見てみると、裏板の内側に鉄板が溶融した形跡がなく、本体側の鉄板部(本体側溶融部写真)を見ても、うっすらと溶接の熱が伝わった跡らしいものが見えるだけです。 これでは、ちょっとした力でも簡単にはがされてしまうのは理解できます。 裏側の通常は見えない部分なので、溶接後に余分な溶接肉を削ったりする手間を省く為に、半自動溶接機で、簡単に点付けを行っただけなのでしょう。 クリハラの金庫の場合は ⇒ クリハラ製の金庫は、裏板と本体とを溶接する際には、ふかし付けという付け方を行います。 これは、アーク溶接機で、溶接したい重ね合わせた鉄板の中に溶接棒を押し込んで鉄板同士を確実に溶かし合わせて溶接する方法です。 この方法は、鉄板を溶かし込んで行く為、溶接部に穴が開き易く、また、高温になる為、ひずみが大きくなり、仕上がりの見た目が良くないのが欠点ですが、このような方法でしっかりと溶接を行わないと、今回被害に遭った金庫のような結果になってしまうのです。 このような手法は、技術と手間がかかりますが、このようにしっかりした仕事を行わないと、“強い金庫”は作れないのです! |
検証2、 耐火壁の中には補強材等一切なし 普通の耐火金庫は、壁の中に耐火材として、発泡コンクリートが充填されています。この金庫も、発泡コンクリートが充填されておりました。 発泡コンクリートは、セメントを水で練る際に化学薬品を混ぜて練ることで、化学変化を起こさせて作ります。 強度的には、セメントのみを練ったものよりも弱くなってしまうのですが、耐火性の向上と金庫の軽量化を両立させるのには発泡コンクリートにするのが最良です。 まあ、通常は、鉄板で覆われている為、耐火材部分の強度まではあまり問題視しないのですが、今回のように、いざ鉄板部をはがされて耐火材部分がむき出しになってしまうと、後は、ハンマーやバールの先端で比較的簡単に壊されてしまうのです。 防盗金庫と呼ばれている金庫の中には、この耐火材部分に補強材を入れて、簡単には壊されないようにしているものもあります。 今回の金庫は普通の耐火金庫であった為に、内部に補強材等は一切無く、こうしていとも簡単に穴を開けられてしまったようです。 クリハラの金庫の場合は ⇒ クリハラ製の金庫は、一部製品を除き、耐火壁の中にも補強材が入っております。 防犯上、詳細な説明や内部をお見せすることは出来ませんが、簡単に破壊されないように、さまざまな補強材を組み込んでいます。 これは、いわゆる防盗用金庫に限ったことではありません。クリハラの金庫には、標準で補強材を入れてあります。 ゆえに、クリハラの金庫は重たいのです。 絶対に壊されないという訳にはいきませんが、壊すのに少しでも時間がかかるような作りにすることで、犯人に犯行を諦めさせたり、警察官やガードマンが到着するまでの時間稼ぎに有効的になるようにしているのです。 |
やはり、簡単に壊れる金庫というものは、それなりの簡単な作りをしています。 コストを考えると、仕方のないことなのかも知れません。 しかし、“金庫” がそれで良いのでしょうか? 私はそうは思いません。 金庫は強くなければならないのです。 大切な宝物を、財産を、あらゆる災難から守らなければならないのです。 手を抜いてわずかなコストを削り、他社の製品よりも値段の安さをアピールするよりも、 純粋に製品の強さをアピールする。 金庫とは強さありきだと私は思います。 金庫を必要とするお客様の為にも、クリハラは“強い金庫” を作り続けます。 |